東京地方裁判所 昭和57年(特わ)237号 判決 1982年4月19日
(一)
本店所在地 東京都新宿区新宿五丁目一番一号一〇〇一
東邦産商株式会社
(右代表者代表取締役佐藤稔)
(二)
国籍 朝鮮
住居
東京都新宿区中井二丁目一六番一〇号
無職
大原和夫こと
李和淳
一九三二年八月一〇日生
(三)
本籍 東京都北区田端一丁目二五七番地
住居
千葉県佐倉市中志津四丁目四番九号
会社役員
佐藤稔
昭和九年九月三日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官神宮寿雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
一 被告人東邦産商株式会社を罰金三、三〇〇万円に処する。
二 被告人李和淳を懲役一年六月に、同佐藤稔を懲役一年に、それぞれ処する。
三 この裁判確定の日から被告人李和淳に対し三年間、同佐藤稔に対し二年間右各刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人東邦産商株式会社は、本店を頭書所在地(当初の所在地は東京都新宿区中井二丁目一六番一〇号で、昭和五三年三月一四日に所在地を同都同区番衆町一番地一〇〇一号に変更し、同五三年七月一日新住居表示の実施により頭書所在地となる。)に置き、不動産の売買・仲介等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人李和淳は、同会社の実質経営者として、同佐藤稔は、同会社の取締役として、いずれも同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人李及び同佐藤の両名は、共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の造成工事費及び販売協力費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、
第一 昭和五三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億五、七〇六万四、七三六円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五四年二月二七日、同都新宿区三栄町二四番地所在の所轄四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二六六万一、九七五円でこれに対する法人税額が一七五万六、六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第四三〇号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額八、七四四万三、六〇〇円と右申告額との差額八、五六八万七、〇〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ
第二 昭和五四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億〇、三三五万六、四五四円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五五年二月二八日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四一六万二、六八一円でこれに対する法人税額が二二八万六、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五、六四三万一、四〇〇円と右申告額との差額五、四一四万四、七〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告人李和淳の
(一) 当公判廷における供述
(二) 検察官に対する供述調書
一 被告人佐藤稔の
(一) 当公判廷における供述
(二) 検察官に対する供述調書四通
一 堤日出雄の検察官に対する供述調書二通
一 東京法務局新宿出張所登記官作成の商業登記簿謄本
判示事実とくに別紙(一)(二)記載の修正損益計算書中の公表金額及び申告所得額につき
一 押収してある法人税確定申告書二袋(昭和五七年押第四三〇号の1、2)
同修正損益計算書中の各当期増減金額欄記載の内容につき
一 土地売上高調査書(右損益計算書(一)(二)の各勘定科目中<1>、以下番号のみを示す)
一 土地たな卸高調査書(同(一)(二)の各<2><5>)
一 仕入高調査書(同(一)(二)の各<3>)
一 造成左事高調査書(同(一)(二)の各<4>)
一 支払手数料調査書(同(一)(二)の各<6>)
一 造成協力費調査書(同(一)の<7>)
一 販売協力費調査書(同(一)の<8>、同(二)の<7>)
一 販売手数料調査書(同(一)の<9>、同(二)の<8>)
一 広告宣伝費調査書(同(一)の<10>、同(二)の<9>)
一 工事補償費調査書(同(一)の<11>、同(二)の<10>)
一 給料調査書(同(一)の<12>、同(二)の<11>)
一 諸経費検討調査書(同(一)の<13><14><15><17><18><20><21><23>、同(二)の<12><13><14><17><18><19><20><22>)
一 交際接待費調査書(同(一)の<16>、同(二)の<15>)
一 雑給料(雑給費)調査書(同(一)の<25>、同(二)の<23>)
一 退職金調査書(同(二)の<24>)
一 雑口経費調査書(同(一)の<28>、同(二)の<26>)
一 雑収入調査書(同(一)の<29>、同(二)の<28>)
一 受取利息調査書(同(一)の<30>、同(二)の<29>)
一 交際費等損金不算入額調査書(同(一)の<32>)
一 役員賞与損金不算入額調査書(同(一)の<33>、同(二)の<32>)
一 事業税認定損調査書(同(一)の<39>、同(二)の<36>)
判示事実とくに別紙(三)記載の税額計算書中の土地譲渡利益金額及び土地譲渡税額につき
一 土地重課税調査書
(法令の適用)
法律に照らすと、被告会社の判示各所為は、いずれも昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により罰金の合算額以下で処断し、被告人李及び同佐藤の判示各所為は、裁判時においては刑法六〇条、法人税法一五九条一項に、行為時においては、刑法六〇条、前記改正前の法人税法一五九条一項にそれぞれ該当するので刑法六条、一〇条により軽い行為時法によることとし、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条によりそれぞれ犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で処断し、ここで情状について考えると、本件は、不動産売買等を業務とする被告会社において、昭和五三年及び同五四年の二事業年度の正規の法人税額一億四、三〇〇万円余に対し、合計四〇〇万円余の法人税しか申告せず、総額一億三、九〇〇万円余の法人税を免れた事案であって、そのほ脱税額が高額であるうえ、他の同種事案に比べてその程度が著しいばかりでなく、犯行の方法ないし態様をみても、従業員らに指示して多数の架空領収証を作成させ、これを利用して多額の造成工事費、販売協力費、広告宣伝費等を架空計上した公表帳簿としての元帳を作成・備付けるなどしており、これらの点にかんがみ本件の犯情は悪質というべきであるが、他面、被告会社は設立後日が未だ浅く資産的蓄積も乏しいままに本件に至ったもので、本件を意図した被告人らの納税意識の稀薄さは責められるべきであるとはいえ、本件に至る経緯をみると、被告会社の前年度の確定申告に対する所轄税務署の調査の過程において、税務署員の計算ミス等から二度に亘り修正申告書を提出したが、その際の税務署員の応待ぶりから、翌年度の申告に対する調査が行なわれないと予想したことが本件犯行の一つの契機となっており、被告人らが右のような事情がなかったならば、これほど大がかりな脱税は行なわなかっただろう述べていることもあながち虚偽とはいえないと認められるから動機において斟酌すべき余地がないとはいえないこと、また、被告人らは、犯行後は率直にその非を認めており、公判廷においても公訴事実を自白して改悛し、再び犯行に及ばないことを誓っており、本件ほ脱の結果についても修正申告により本税を納付済みであるほか、地方税及び付帯税についても所轄官署に対し担保を提供するなどして納税の猶予を得ると共に、その履行に最大限の努力を払っていると認められること、被告会社は本件により対外的信用を失うなど相応の社会的制裁を受けていると認められること、被告人らにさしたる前科がないことなど被告人らに有利な諸事情も窺われるので右各処断刑の範囲内で被告会社を罰金三、三〇〇万円に、被告人李和淳を懲役一年六月に、同佐藤稔を懲役一年にそれぞれ処し、刑法二五条一項を適用して被告人李に対しこの裁判確定の日から三年間、同佐藤に対し同じく二年間右各刑の執行を猶予する。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑、被告会社、罰金四、五〇〇万円、被告人李和淳懲役一年六月、同佐藤稔懲役一年)
(裁判官 小泉祐康)
別紙(一) 修正損益計算書
東邦産商株式会社
自 昭和53年1月1日
至 昭和53年12月31日
<省略>
別紙(二) 修正損益計算書
東邦産商株式会社
自 昭和54年1月1日
至 昭和54年12月31日
<省略>
別紙(三)
税額計算書
東邦産商株式会社
<省略>